帰化をすすめられた?

 Mさんの車で八公山をドライブし、木立の中でリンゴを食べながら、唐突にMさんがこんなことを言い出した。

 「TAMAは国籍を日本にしたらどうだ」

 は?いきなり何?と思ったのだが、保守の牙城大邸にあって大学勤めで自身も弱者である部分もありリベラルなMさんは、Mさんなりにいろいろ考えてきたことがあるらしい。私にこの話を必ずしなければ、と用意していたような感じだった。

 「TAMAはこれからも日本で暮らすのだし、韓国の国籍のままではいろいろ不都合もあるでしょう。国籍を変えた方が暮らしやすくなるんじゃない?もしそうしたいと思ったなら、こっちに遠慮することなく変えたらいいからね。ただ、オンマ(西太后)には内緒だけど」

 「イモには内緒?嫌がられるの?」
 「オンマはだめだと思う」
 「でも(西太后お気に入りの)Gは帰化してますよ。ずっと昔に家族全員で」
 「あ、それはオンマには言わない方がいい」

 何て勝手なんだろう、と呆れた。そして怒りを覚えた。一体、のうのうと韓国にいながら、日本で差別も受けつらい思いもしてきた我らに対して、西太后はどうして帰化するななどと思えるのだろう。自己中心的すぎる。

 私はひとつ後悔していることがある。ここでMさんに「言わない方がいい」と言われたので、私はMさんに遠慮して最後まで西太后にGが帰化してることを言わなかったのだ。言ってやればよかった。というか言うべきだった。お気に入りで立派だと思っているGがとうの昔に日本人だと知らせてやるべきだった。Mさんにしょうもない義理立てをしてしまったばかりに。

 ともかく、Mさんの「思い切って言った」感が逆に、ここでは帰化がそれだけタブーだったのか、と教えてくれるようだった。勝手なもんだ。だって、韓国にいる親戚に、私らがどうしようが関係ないじゃないの。何の権利があって?自分は何もしないのに。なぜ自分のナショナリズムをこっちに押し付ける?しかも売国奴朴槿恵支持の超保守主義者の考えることを。

 やっとられんわ。

 そういえば、私が現在の母の写真を向こうの親戚たちに見せた時、こういう反応があった。

 「日本人みたい。ずっと日本に住んでると日本人みたいになるのかな」

 もともと母は「朝鮮まるだし」のタイプだった。日本にいる母の姪の一人が(こいつも大概の性格だったが)、「あんたのお母さん、朝鮮まるだしやろ。だから一緒にいるの見られるの恥ずかしいねん。うちのお母さん(母の姉)は全然違ったのよ。すごぉく上品できれいだったの」 それをよく私に向かって言えるな、と思ったが、とにかくそういう感じの人だった。それが今や、韓国人から「日本人みたい」と言われるのだなあ、と感慨深かった。