花猫がゆく再訪2・大邱(テグ)というところ

 この4~5年ほど、近くの韓国語講座に通っていた。先生は皆ネイティブの韓国人なのだけど、中に「この人、本当に性格が悪いな」と思う人が何人かいた。表面的な人当たりはいいのに底意地が悪く、他人が見てないところでは陰険な意地悪をするタイプ。とても嫌な思いをさせられたこともある。約2人。どちらも韓国の大邸出身の女だった。その時はたまたまだと思っていた。韓国人はサッパリした人が多いと思っていたので、こんな陰湿な人もいるんだなと思っただけだった。

 うちの母親の出身も大邸で、今でも親戚は大邸に在住している人が多い。母親は10人きょうだいの8番目で、今も母親のきょうだいで存命なのは韓国では10番目の妹だけ。9番目の妹を含め、多くのきょうだいは早々に亡くなっている。うちの母と10番目は顔も体型もそっくりなので(頭の良し悪しだけは正反対)長生きの体質も似ているのかもしれない。

 韓国では母方のおばは「イモ」と呼ぶのだが、この10番目のイモが、前回の覚え書きでも書いた通り、大変な女帝なのである。前近代の家父長制の女版というのか、絶対君主制というのか、とにかく下の者に有無を言わせず従わせる感じ。前回訪問時には献身的な嫁がいて、全面的にこの女帝な姑の世話をしていた。女帝イモはデーンと座ったままで何もしない。料理も洗濯も掃除も、全くしない。皆、嫁がこまごましく動いて働いている。本当に家父長制のお父さんみたいな姑。ほんとによくできた嫁だなあこんなきつそうな姑に黙って仕えて日々働いて、と思ったことは前回の覚え書きにも書いたけれど、実情はまた違っていた(その話はおいおいまた)。

 以前、韓国のテレビの選挙開票速報を見て目を疑ったことがある。大邸では保守の政党(当時はセヌリ党。日本の自民党みたいなもん)の得票率が98%とかいう見たことないような数字だったからだ。逆に全羅道の方ではリベラル政党が98%くらいだったりで、物凄く両極端。よくいわれる慶尚道全羅道の対立というのはこれほどはっきりしたものなのかーと驚いたものだった。

 前回訪問時は知らなかったのだが、慶尚道の中でも大邸のある慶尚北道はTKといわれる本当に特殊な地域で、朴正煕・朴クネのお膝元であり、保守の牙城、鉄板の地域なのだった。今回、朴クネの弾劾を求めて全韓国の人が「ろうそくデモ」を繰り広げる中、それに対抗する親パク派のデモの人たちの印象がとても悪がった。パク親子の恩恵を受けた高齢世代が中心で、そういう人を集めたのかわからないが、ろうそくデモが平和的なデモだったのに比べて、暴力的な人が多く「こわい」という印象があった。私の中では朴クネを支持する人の印象はよくない。そして朴クネ支持者は圧倒的に大邸周辺の人が多いのだ。というか現在の韓国内で、国賊ともいえる朴クネを支持するのはほぼ大邸周辺の人しかいないだろう。それぐらい、特殊な地域なのだ。

 ところで私が生まれ育ったのは京都だけれども、正直私は京都があまり好きではない。排他的で差別的な人が多いからだ。京都の人は特権意識を持っているようで、同じ日本人の中でもよそ者は差別したりする。もし京都で育ってなかったら、子供の頃の差別やいじめももっとマシだったのではないかと密かに思っている。大阪から移住した人が「京都は仕事がやりにくい。人間関係が難しい。人間がえげつない」と言うのを何人からも聞いたことがある。しかも盆地で夏の蒸し暑さは実に耐え難い。

 大邸の人の特徴としてよく言われるのが、保守的、排他的、特権意識を持っている。そして盆地で夏の暑さがひどく、テグ+アフリカで「デプリカ」と呼ばれている…。まるで京都と一緒じゃない?親の地元もこれなのだから、もう差別的な土地柄に縁があるのは私の宿命なのかもしれない(泣)。

脱北者が「脱大邸(テグ)」するワケは? スパイ呼ばわり、就職難・・・ | DailyNK Japan(デイリーNKジャパン)

韓国南部の大邸(テグ)市。人口250万の韓国第三の大都市だが、保守的でよそ者に対して冷たいことで「定評」がある。その大邱に住む脱北者が最近、「脱大邱」する傾向にあると大邸の地方紙、嶺南日報が伝えた。

昨年12月の時点で大邱市内に住んでいる脱北者は683人で昨年6月の702人に比べると減少している。脱北者が大邸を離れる理由として一番に挙げられるのは就職難だ。

 

しかし、就職難以上に脱北者が大邸を離れる最大の理由として挙げられるのは脱北者に対する大邱市民の「偏見」だ。

大邸在住10年のパク・チンソクさんは「北朝鮮訛りのせいで仲間はずれにされた経験が忘れられない」「脱北者だと言うとあからさまに見下される」などと大邸でのつらい経験を語った。

「『北朝鮮から来たんだからパルゲンイ(アカ)だろ?』と言われたことが心の傷になっている」とスパイ扱いされたことすらあるとパクさんは語った。

ユ・ミニさんは昨年9月、ハナ院(脱北者教育施設)から居住地として大邸が割り当てられた。言われるがままにやってきたものの半年足らずで大邸を去った。

ユさんは「大邸の人はよそ者を中々受け入れてくれない」「訛りで脱北者かどうか確認されるのが大きなストレスだった」と大邸での経験を語った。

 これはひどい。これじゃ日本での在日差別と一緒じゃないか。しかも同じ民族の中でも差別するあたり、京都ともちょっとかぶる。

 しかし語学学校の大邸出身の先生の陰険さも、こういう土地柄なら少し理解できる気がする。それと、これはただの印象論なのだけど、日本在住の若い韓国人には大邸出身の人が妙に多いな、と思ったことがある。もちろん統計的にはわからないけれど。地理的に近いからかな?と思ったりもしたけど、もっと近くて人口も多い釜山の人にはあまり会ったことがない(古くからいる在日には釜山出身はたくさんいる)。

 これは私が勝手に思っているだけで何の根拠もないけれど、実は大邸の人の中にも(特に若い人は)大邸を窮屈に思っている人が結構いるんじゃないんだろうか。おおっぴらには言えないけど、こっそり脱大邸したいと思ってる人が多かったりするのかも。なぜおおっぴらには言えないかというと、あの異常なナショナリズム儒教でがんじがらめなために、自分の住んでる土地、国、家庭に不満を言うことが許されにくい社会だから、かもしれない。特に家庭の中で目上の人に不満を言うのは難しかろうなあ、と強権的な女帝イモを見て思ったのでした。

 あと、現在の韓国ではソウルの大学を出ないと就職が難しいという事情もあるかも。地方の大学出身者は外国に行くなりして別のキャリアを模索する人が多いと聞くので。

 悪くばかり言ってるようなのでいいことも書いておくと、大邸に限ったことではないかもしれないけど、親戚たちに関して言うと、家族親族の結束は物凄く強い。日本では親戚づきあいってもっと淡白なことが多いけど、この人たちは一族がまるで「部族」という感じなのだ。日本でも田舎ではそういう感じなのかもしれないが、いっても大邸は韓国第3の都市で、大都市なのだ(大都市だけど人は田舎のまま、といえばそうかもしれないが)。

 私などから見ると、ちょっと窮屈そうに見えたり、いわゆる「黒い羊」というか、家族の期待にそぐわないタイプだったらしんどそう、とか思う部分もあるけど、あれだけ結束が固かったら何かと心強いだろうとは思う。保守的、排他的であることの一面なのだろうね。