花猫がゆく再訪6・人を食い殺すトラ

 人相学では顔の横幅が広い人は支配的な性格で自己主張が強いとされるけれど、これに関しては科学的にも理屈に合っているらしい。男性ホルモンのテストステロンの分泌が多いと顔の骨格が横に張り出すからだそうだ。

 キドハジャイモは満月のようなパーンと横に張り出した丸顔なので、性格的にもこれには当てはまっている。顔は谷啓をもっと太らせて丸顔にしてタレ目にした感じ。キドハジャとうちの母は双子のようにそっくりだけど、顔はキドハジャのほうがより横に張り出している。

 キドハジャの娘Mさんの話によると、キドハジャは昔から親戚たちから「○○洞のトラ」と呼ばれていたほど気性が激しかったそうだ(洞は日本では町にあたる)。息子が気に入らないことをすると息子の髪をひっつかんで引き回したとか。気が強いだけでなく頭もよく、夫の仕事もトラブルがあると自分が解決してやり、息子の就職も自分のつてでまとめた。

 韓国では干支を重要視するから(若いアイドルたちでも年齢と同時に干支を確かめ合ってること多し)、もしかしたらキドハジャも干支がトラだからトラと呼ばれたのかもしれない。今ちょっと調べてみると、私の干支と寅年は相性が悪く「ケンカが多く、決してわかり合えない」とあった。もしそうだとしたら、当たってる。でも親孝行のMさんは私と同じ干支で、私とMさんが共通点が多いと感じるのもそのせいもあるのかもしれず、またこの親子は仲はよくはあるが、私から見るとMさんが親の犠牲になっているように見える気もするのだった。

 親戚がキドハジャをトラと呼んだのは性格のせいだけではなく、非常に頭がよくてやり手だったこともあったらしい。特に計算や記憶力が異常によく、一度見たことを細部に渡り細かく記憶している。数字も含めてそれなので、親戚たちは昔から、何かあればこのトラに「あれはどうだったか」と確認を取ったりしたらしい。この記憶力の凄さは、私も直接話していて実感している。高齢なのに母と違って全く認知症もなく、若い頃のことを細部に渡って鮮明に記憶している。気持ち悪いくらいに。数十年前の記憶でも、すらすら出てくるのだ。「よく覚えてないけど」みたいなセリフは一切ない。一度見聞きしたことは全て記憶の引き出しに入っているようだ。その場で一緒に話を聞いていたトラの娘たちも「うちのオンマの記憶はすごいから」と言っていた。

 私は自分の母親に少し発達障害の傾向があるのではないかと疑ってきた。知能障害ほどではないが低めの知能、でもただ知能が低いだけとは言い切れない勘の良さ、細かい部分まで記憶していて少しでも環境が変わると気持ち悪いらしく指摘してくる。ゲームやパズルには異常なほど熱中する(デイサービスの人にも「パズルをしたら集中力がすごいです」「オセロや花札でエキサイトされてます」と何度も言われた。「認知症の方としては異常なほどに、と思います」と実際言われた)。そして、人には人の考えや立場があるということが理解できない。他人の視点が理解できない。人の気持ちというものが「わからない」のではなく全く「存在しない」(この部分は自己愛性人格障害と思われる娘に受け継がれている)。悪人というわけではなく、無邪気に自分だけ。アルプスの少女ハイジみたいな性格。

 そんな親に育てられる子供たちはたまったもんじゃない。悪人ではないが、まぎれもない「毒親」なのだ。

 発達障害には遺伝性がある。イモの記憶力の話を聞いて、こりゃやっぱりその傾向がある家系なんだなと思った。

 因みに、発達障害は「障害」とついているけれど、脳の偏りの問題なので、厳密に言えば程度の差はあれ誰でも発達障害なのだ。偏りが社会にうまく合う形で出れば特殊な才能のある人だし、不都合で本人や周囲が困るほどであれば障害になる。

 トラはその強さゆえか、まわりの運命を食っていっているように私には見えた。昔は「寅年の女は男を食い殺す」とも言ったらしい。トラの夫は若い頃に病気で亡くなっている。そして長男も随分前に事故で亡くなっている。当時長男には小さい子供が2人いて、下の子供はまだ赤ん坊だった。その後は嫁と孫2人とトラとの4人暮らしが続いた。前回訪問した時には、なんてかいがいしく姑の世話をするすごい嫁だろうと思っていた。敬虔なカトリック教徒だからなのかな、とも。宗教に理由を求めたくなるくらい、滅私的によく働いていた。その時は全くわからなかったが、嫁は姑のトラを実は激しく嫌っていたと今回Mさんから訊いた。「ええーっそんな風には見えなかった」と驚いたと同時に「やっぱりそうなのか、そりゃそうだよな~」とめっちゃ納得した。国が違っても宗教があっても、やっぱ同じ人間じゃんと。

 その嫁は、高齢の姑より先に重い病気になり、今は遠方にあるカトリックが運営する療養所にいる。こういう面では宗教は役立っている。その中で生きていれば利益があり安心できるコミュニティとして。Mさんがドイツに留学していた時も教会へ毎日通ったという。外国でもさぞ安心できただろうと思う。もし家族の誰かが死んでも教会に連絡さえすればいいと思えば安心だ。しかも良心的でぼったくりもない。宗教は、それでこそ意味がある、というかそれでしか意味がないんじゃないだろうか。

 しかし嫁はさぞ無念だったのではないだろうか。当然、トラの方が先に死ぬと思って辛い嫁生活を耐えてきたことと思う。その時がくれば家は自分と子供たちが暮らせるだろうし、トラから解放されて自由になり、悠々自適に暮らせる。という見込みだったと思う。はっきりそう考えてはいなかったとしても、年齢からして当然そういう予測をしてたはずだ。

 なのにトラは長生き。病気をしても復活。自分のほうが先にどうなるかわからない状態になったのだ。将来化けて出てもおかしくないかもしれない。Mさんは、嫁から姑への不満をたくさん聞いてきたという。でも自分は姑の娘だから、あまり嫁につくこともできない(それはわかる気がする。Mさんは自分は理解するよという態度でいるので悩んでいる人は理解を求めてつい話してしまうのだ。でも後から「えっ」と思うほど手のひらを返すことがある。私にもそうだった)。自分は間に入って板挟みだったけど、嫁のストレスはたいへんなものだった、本当にオンマを嫌っていた。物凄く嫌っていた。そのストレスで病気になって、かわいそうだ、とMさんは言っていた。

 私が訪問した時点で、Mさんは療養所にいる嫁と少し険悪になっていると言っていた。嫁に何か気に障ることを言ってしまったらしい。自分では気づかなかったが、嫁の娘Tから「Mさんはしばらく私を通してオンマと話して」と言われたのだそうだ。Tはきっと自分の母親の味方なのだろう。所詮Mさんが自分の母親の味方でしかないように。

 トラの娘の一人はごく早くに亡くなっている。そして娘の一人Mさんは生まれつき体が異常に弱く障害もある。

 聞けば聞くほど、周りの運を食っているように見える。別にトラでなくても、そういった人はいる。まま、異常に運の強い人の周りにはそういったことがあるものだ。

花猫がゆく再訪5・宗教にウンザリ

 Mさんの勤め先の大学は郊外にあり、敷地が巨大で、ひとつの村のようだった。私が見た大邸の他の大学もそうだったから、地方都市の大学としては、こういうのが一般的なのかも。敷地の中に学部ごとの建物や食堂などだけでなく、公園に池、テニスコートにバスケットボール場やコロセウムみたいな形の競技場もあった。休み中で人は全然いなかったけど。

 Mさんの話では、それらの施設は学生を集めるためにあるのだそうだ。日本もそうだが韓国も少子化がすすんでいる。それと韓国独特の事情として、ソウルの大学でないと就職が難しいという問題がある。

 地方の大学を出た学生はどうするの?と聞いたら、それが問題なのよ~という感じで、大学は苦慮しているらしい。ただ、学生の総数は2万もいるとのことで、よくそんなに人が集まるな、とは思う。大邸だけでも他にいくつも大きな大学があるのに。韓国は大学進学率が高いからかな?

 Mさんの学部の場合は、芸術系ということで、先生になる人が多いらしい。学校の先生だけでなく、いろんなところの先生。

 キャンパス内の、池のある公園の向こうに、4~5階くらいの高さのきれいな団地のような建物がズラーッと並んでいた。ほんとに、どこまでも並んでいた。それは寮だと聞いて驚いた。よくそんなに人間がいるな、と思ってしまうくらい、建物はたくさんあった。

 でもそれだけじゃなかった。「あそこに高いビルあるでしょ、あれも寮」とのこと。タワマンみたいに大きな高層ビル。団地型の寮より新しく建てられたものらしい。

 それだけじゃない。キャンパスの外、大学の周囲の道路沿いはワンルームマンションが見渡す限り並んでいる。もののたとえではなく、本当に見渡す限り並んでいた。「あれもあれも、ぜーんぶワンルーム」。皆同じ形式で建てるから、見ただけでワンルームだとわかるのだそうだ。ここに大学が移転して以降、周辺の住民がこぞってワンルームに建て替えたとのこと。「あんなに寮があるのにー」と言うと、寮は規則があるから窮屈に思う学生は多くて、そんな人はワンルームに住むとのこと。やっぱ韓国人でも現代人はそうなんやね。

 その他に自宅通学の学生も相当数いる。そして、大学周囲の普通のアパート(マンション)、家族で住むようなところ、そういうところもほぼすべて大学関係者が住んでいるとのこと。これだけ大学の規模が大きければそこで働く人も多いわけで。あとは食事をしたり飲んだりするところを含めて、ほんとうに街全体が大学村。たぶん大学がくる前はなんもない田舎だったんだろう。

 ところでこの大学はカトリック系なので、キャンパス内に聖堂もあるし、神学部もある。カトリック信者の多い韓国のことだから、学生は信者が多いのかと聞くと、そうでもないらしい。もちろん信者もいる。私は少し前に島田裕巳の「宗教消滅」という本を読んでいて、そこには世界的に宗教離れがすすんでいると書かれていた。ヨーロッパでも教会に行かない人が急速にふえていると。韓国人は(いろんな意味で)宗教心が強いからそんなことないのかな、と思いながら、宗教心の強いMさんには不謹慎な気がしてそんな質問はしなかった。そしたら。

 「韓国でも最近教会に行かない人がふえててね」

とMさんの方から言い出したのだ。思わず「ええっ、やっぱり」と言ってしまったよ。

 「なぜ信仰しないのかと学生に聞くんだけどねえ。教会関係者にもいろんな人がいてね。神父様にもシスターにも、いろんな人がいるのよ。中には人格的にちょっと、という人もいる。もとは信仰していた人がそういう人を見て、落胆して信仰から離れていく。そういう人が、多いのよねえ」

 こんな話をわざわざしてくるくらいだから、そういう人が相当多いのだろう。尊敬に値しない宗教者を見てうんざりする人。

 正直、ぶっちゃけ、ここだけの話、韓国だからじゃないの?とちょっとだけ思ってしまった。もちろん日本でも宗教関係で悪い人はいっぱいいるだろうけど、人間の良し悪しだけでなく国民性?の違いもありはしないか。韓国人にも清廉潔白な人、真摯な人、誠実な人、いると思う。たくさんいるでしょう。けど私があくまで個人的に「ああ韓国人らしいな」と思うタイプは、良くも悪くも自己中心、パワフル、自分を押し通す、儒教信仰で上のもんが無条件でエライ、相手の話を聞かない、そんな感じで、そういった特性が特に強い人が宗教関係者の中にも必ずいるはず。

 日本で親が通っていた教会に、韓国から来たシスターが数年間滞在していたことがある。このシスター、悪い人ではないだろうけど、すごい商売っけが強かった。教会内で長年地味にやってきた留学生のための学生寮を全面改装し、家賃をドンと上げた(改装の財源は長年の信者たちの寄付?かどうかは不明。因みに韓国人の不動産運用熱はすごく、イモも家賃で長年食ってきた)。自分で韓国語教室をやり、はっきり言って素人先生でほぼ役に立たない授業なのにお金をとってた。教会にパソコンを導入して、VHSビデオも使えないような年寄り(うちの母)にDVD渡してた(買わせたのかもしれない)。DVDプレイヤーもなかったのに。すごい明るい人ではきはきしてたけど、あまり繊細なところはなくて、なんかシスターっぽくない人だなあ、と思っていた。少なくとも、悩みをこの人に相談したいとは全く思えないタイプだった。でも他の韓国から来たシスターはすごく物静かで優しそうな人もいたから、このシスターは特別だったと思う。でも、日本人ならあり得ないんじゃないかな、こんなやり手の尼さん。

 他にも、キリスト教ではないが、ひどい宗教者を見たことがある。日本にある韓国系仏教の寺にいた、韓国人の坊主だ。これは本当にひどかった。なんというか人格が劣悪というか、人への思いやりなんて1ナノグラムもない感じで。韓国の寺から追い出されて辺境の日本に左遷されたんじゃないか、と密かに思ったくらい。

 まあそんな人もいるくらいだから、おかしな宗教関係者、ぜんぜん不思議じゃない気がします。そんなことMさんには言わなかったけど。もちろん真面目な人がほとんどだとは思うけど。

 でもこの話があとでまた出てくることになったのよねえ。まるで伏線だったかのように。

 旅行の最終日にブチ切れた時、その場にいたMさんの妹までが「言ってあげたいんだけど、TAMAは信仰したらいいと思う」と言い出し、Mさんが「それは私も言ってあげたの」と言って2人で布教を始めたので、ブチ切れついでにこう言ったのよ。

 「正直に言っていいですか?うち母親信仰心強いでしょ。でも母はよくない所がたくさんあります!小さい頃からそんな姿を見て私は信仰する気はなくなったんです!」

 そしたらMさんが我が意を得たりという感じで「ほらぁ、これだ!」と言って笑ったのだ。Mさん妹が意味がわからなそうにしていると、尊敬できない宗教者のために信仰をなくす人の説明を自分の妹に上手に説明して、それで布教は止まった。きっと、このパターンは絶対に信仰は戻らないと経験から熟知してるのだろう。

 ついでにもひとつ宗教話。

 最後の晩、私は女帝イモに理不尽に叱りつけられ(私が悪いのではなく、うちのきょうだいが母に会いに行かないと聞いて、勝手に機嫌が悪くなり、ひとりで体壊しながら介護してきた私が叱りつけられた。そんなバカな話あるかいな)その後捨て台詞のように自分の娘2人に言った言葉。

 「キドハジャ!(祈ろう)」

 これにはムカーッときた。キドハジャ、じゃねーだろ!それは思考停止なんだよ!自分に都合いいだけ。目の前のもん見ろよ!!キドハジャの前に「大変だったね」の優しい慈悲の言葉のひとつも言えないク○(ソでもズでも)が、何が神だ。

 まあそもそも、女帝イモは私のことは前からもひとつお気には召さなかったのだと思う。こいつのお気に入りは自己愛性人格障害のほうだった。外面をよく見せる天才のあっちはまさしくお気に入り。たぶん相性サイコー。私はたぶん「かわいくない」のである。

 あと、イモが昔、私にこんなことを言ってたのも印象に残っている。

 「おまえはXX(自己愛性人格障害の名前)とは違う。おまえはTと一緒だ」

 きれいに自己愛性人格障害と私を比較しやがって、そういうの最低だと思うんだけど、このTとは当時同居していた孫娘の名前。この時は単に「自分勝手な現代っ子」くらいの意味かと思ってたのだけど、もしかしたらそれだけではなかったのかもしれない。

 今回知ったことだが、女帝イモは実は嫁と非常に折り合いが悪かったらしく、嫁はこの姑が大嫌いだったらしい(当然だよね…)。娘は母から祖母の悪口を聞かされるだろうし、祖母よりは母の味方だろうし、そう思えば孫娘とは少し距離があったのかもしれない。そのTと一緒とは、「自分に従順ではない何か」を私から感じ取っていたのかもしれない。

花猫がゆく再訪5・こんな嫌な思いをしてまで

 (非常に個人的な話になっていくのでここからは載せるのはどうかと思ったけど、自分の覚え書きとして載せておくことにした。たいして誰も見てはいないさと思うことにして)

 今回の旅行で親戚たちと話す中で初めて知ったのだけど、イモの暮らす家は、昔、私の父から借りた金で買ったのだそうだ。父から借りた金で便利な場所に家を建て、その1階を人に貸すことで収入を得て、父に金を返したのだと、イモの娘の一人から聞いた。やり手のイモらしい。1階は、長い間テコンドーの道場に貸していたが、今回行ったらなくなっていた。

 この家は大きな駅に近い上、活気のある市場の一帯の中に建っていて、道で野菜などを売る人がたくさんいる。その野菜売りの人に家の前の場所を貸すことでも場所代を得ている。ずっと同じ人に貸しているので、門番がわりにもなってくれているそうだ。真向かいは大きなカトリック教会。まさしくイモにとって最高の場所だっただろう。

 私はこの話を聞いて、なんだか納得できないような、もやもやした複雑な気持ちになってしまった。このイモは私に会ったり電話で話したりすると日本語で「お母さん大切にしろ」と必ず言ってきた。まあ普通の社交辞令のようなものだし儒教信者としては当然の挨拶と、気にもとめずハイハイ言ってきたのだが、この話を聞いて印象が変わった。そもそも今回の旅では(いや前から少しあったが)くわしくは言いたくないがこのイモには非常に嫌な思いをさせられた。正直、絶対に許さないこのババア、と今は思っている。

 ぶっちゃけ、「何だよ、偉そうなこと言って、うちの親に感謝する理由があるんじゃねえかよ、全部自分の都合なんじゃねーかよ」と感じたんである。それなら、「あんたとこのお父さんには昔よくしてもらって感謝してる。だから親は大切にしいや」とでも言えばよいのである。なら納得できる。素直にハイと言える。ただ偉そうに上から命令されるのとはわけが違う。

 私がこの数年間、親のために苦しんできたこと、それでも私なりに最善を尽くしたこと、きょうだいの卑劣さ、言葉にしきれない押しつぶされそうな思いを大量に抱えながら、自分の家族の中で韓国とつながるのは私が最後だろうから、力は足りないだろうけど自分が橋渡しの役をしようかという思いで、会いに行ったのである。その私の思いをこのク○ババアは文字通りク○にしやがった。

 韓国滞在の最後の晩、私は怒りや理不尽な思いやらで、一睡もできなかった。本当に1分も眠っていない。このまま明け方にこっそり荷物を持って出ていこうかとも思ったけれど、あとでよりややこしくなることを考えて思いとどまった。夜からずっと泣いたままだったので、朝になっても顔の腫れはおさまらなかったし、少し話し出すとまた涙が出てしまうような状態だった。その状態で(日曜だったので)強制的に教会に連れて行かれミサに出て、食事をしてから送るというのを「もう帰る。ひとりで帰る」といって出ようとするのを引き止められ、仕方なく車で送ってくれた。本当に一刻も早くひとりになりたかった。

 他の親戚たちと話すのは問題なかった。違和感はあっても文化が違うのだから当然だし、いくら疲れてもこういうものだと思うことができた。問題はひとえに女帝イモだった。私は本当に、自分中心で支配的な人間が大嫌いだ。

 あとになって、こんな嫌な思いをしてまで、行かなかったほうがよかったかな、とも考えたけれど、もし行っていなかったとしたら、中途半端なやりかけの気持ちが残ったままこの先ずっと過ごすことになってただろう。踏ん切りがついたからこれでよかったのかな、と思うことにした。

 旅行中、たまっていたものがブチ切れて泣きながらMさんに語ったことは、母は日本になど来ずにずっと韓国にいてたらどんなによかっただろう、ということ。うちの母は足りない人だ(多分発達障害の傾向がある)。父は若い頃はDVだったし、日本で頼れる人もなく、合わないシオモニ(姑)もいて、さぞ不安で嫌だっただろう。その嫌さ不幸さが子供に伝わって、5人の子供は全員歪んだ人間になっている(自分は世界一善良だと思って自信満々の姉がいるが、こいつが一番歪んでいる。典型的な自己愛性人格障害者だから)。

 韓国にいたまま、この濃い一族のコミュニティに守られていたなら、足りない母でも大丈夫だっただろうし、子供たちを不幸にすることもなかっただろう。そうだったらよかったのに。

 私はひとつ、訝んでいたことがあった。母の10人きょうだいのうち、女は6人か7人、その内日本に嫁に出されたのは2人。なぜ母がその内の一人に選ばれたのか。日本に出したらめったには会えなくなることを考えると、もしかすると、親の親からすると、あまり大切でなかったことはなかっただろうか。自分にとって特にかわいい出来のいい子供なら、なるべく近くに置いておこうと思わないだろうか。

 非常にドライな話だけど、子供は10人もいるんである。その上、日本に暮らすというのは当時は悪い話ではなかっただろうし。しかしそれにしても、知り合いのつてがあるだけの(教会関係の村の知り合いの紹介だったらしい)会ったこともない、それも異国の家に送り出すなんて、異常だとしか思えない。

 一族の結束に守られた韓国の親戚たちには、いくら親戚であろうと、在日の複雑な思いは絶対に理解できないし、そもそも理解したくもないのである。それは韓国人全体にもいえる。韓国人が在日に冷たいというのは事実だ(ちなみに反日だというのは事実に反する。韓国人は日本政府は嫌いだけど日本人のことは尊敬してるし大好きだ。そこは切り離して考えている。実際のところ、日本人は大好きで在日は嫌いなのである)。うちの家族だけの、また私だけの、個別の事情もたくさんある。世代の問題もある。彼らには複雑なことは理解できない。家族主義と儒教で全部が覆われてしまう単純な世界。その価値観からはみ出たらやっていけない(韓国に自殺が異常に多いのはそのせいが大きいと私は思っている。韓国人には大ブーイングされたけど)。だから、嘘だらけ。嘘で固めながらそれが嘘だとも気がつかない。指摘してもダメ。自己主張が強いから自分がこう思う!とどこまでも押し通す。

 理解して尊重しようとしてきたけど、ちょい疲れたかな。

金持ち税

韓国、住宅市場の規制強化も 投機抑制向け=文大統領 | ロイター

 韓国政府は2日、ソウルや釜山などで住宅バブルをあおっている投機を抑制するため、複数の住宅の所有者を対象にキャピタルゲイン税を引き上げる方針を表明。

 女帝イモと金持ちのYさんが罵っていたムン・ジェインの不動産に対する政策のひとつ。

 韓国では金儲けや蓄財といえば、とにかく不動産。チェ・スンシルも江南だけでなくドイツにもホテルや邸宅をたくさん所有して財産を不動産化している。今いい暮らしをしている人はだいたい20~30年前に不動産を的確に買った人たちだということだし、それを目の当たりにしてる普通の人たちの間でも不動産投機への関心が高くなるのは当然かもしれない。ソウルの不動産の高騰はすさまじく、家賃が大変なことになっているらしい。

 イモたちのようにムン・ジェインの不動産に関する増税に拒否反応を示す人は多いらしいのだが、面白いことにその大半は、増税の対象にならない、住宅を複数持ってたりという条件から外れる人たちなのだそうだ。要するに、自分も不動産で儲けた時のことを考えて反対してるという。韓国人らしいわ。

花猫がゆく再訪4・大邸のリベラル

 保守王国大邸の典型的市民である親戚たちの中にもリベラル(?)の人が一人だけいた。この人Mさんは大学の芸術関係の教授をしているので、そういう環境のせいもあるとは思うが、それよりも大きいと思えるのは、この人自身がマイノリティに近い立場だからだと思う。

 Mさんは生まれつき体が非常に弱く、子供の時の病気のため障害がある。また、高校生の時に別の病気(胃腸障害か何か)のために使った薬の副作用で、ちょっとここには書けないが今もかなりな症状が残っている。当時その薬を処方した医者によると、その薬はそれまで多くの人に出してきたが、そんな副作用は出たことがなかったし、医者も知らなかった。調べたところ、確かにその副作用は報告されていたが、一般的ではなかったらしい。弱いMさんの体質に合わなかったのだ。

 韓国人なのに辛いものを食べると下痢をするので食べられず、真夏でも体が芯から冷えるので冷房も使わず毛布や膝掛けは手放せないMさん。職場では管理職をさせられる立場。学生に教えるのは好きだが、教師たちは難しい人も多く、気を使いまくってストレスで糖尿になったという。芸術関係の先生たちは本当にわがままで自分勝手な人が多くて大変だと言っていた。ちなみに独身。

 私が見た限りでも、これでマイノリティの立場がわからなきゃおかしい、という感じの人なのだ。私がずっと前に初めてMさんに会った時の印象も、「できた人だ」そして「苦労人だ」だった。

 覚えてたらあとでまた書きたいと思うけど、私はMさんとは少し共通する部分があると感じた。私はMさんほどできた人ではなく、あそこまで病気による苦労はしていないので、そんな風に考えるのはおこがましい気もするが、それでも体質による苦労をすごくしてきたほうだ。小児喘息に重症アトピー、20代後半で脱ステロイドしたあともステロイドの後遺症はずっと続いて大変だった。今でも体質は過敏で、例えば一般のシャンプーは全て肌に炎症が出て一切使えない。もちろん化粧はできないし、一般的な化粧水も炎症が出るから使えない。スキンケアに使うのはホホバオイルなどの純粋オイルだけ。化学物質にも何かと過敏。繊細な気質も似ている気がする。他の親戚に比べて顔も少し似ている。精神的な部分ではずいぶん違うけど。

 親戚の家族の結束はものすごく固いので、Mさんはきっと家族にも守られ、一族の信仰するカトリックの信仰にも守られ、カトリックのコミュニティの中で生きて仕事もしてきた。迷うということはあまりなかった人生かもしれない。そのへんは私とは全く違う。でも紛うことなき弱者で大変な人生であったのは間違いないと思う(でも上記の理由から、いわゆる「生きづらい」人ではないということが今回よくわかった)。

 関係ないが、最初の晩はMさん宅に泊めてもらったので、その時いろいろな話をした。うちの家庭はものすごーーーく問題が多く、母親の介護の問題ではとてもつらい思いもしてきた。そんなこんなを吐露する話もして、非常に共感力のあるMさんはよく聞いてくれたし、Mさん自身の話もたくさん聞いた。それはよかったと思う。けど、それから一晩寝て、翌朝のMさんの最初の話がこれだった。

 「私は昨日よく考えたんだけど、TAMAは教会に行って神様を信じるべきだと思う」

 きたきた、きたよー、と思うと同時に、がっくりきた。なんだ、なんにも理解してねーじゃねーか。人の弱い部分を知ったら、布教。創価学会と変わらない。

 それから30分ほど、神を信じるのがどれほど素晴らしいか、えんえん布教が続いた。普通にミサに行くだけではなく、教義を深く学ぶための講座(みたいなのがあるらしい)に行くのを勧められたり。人や状況など外部のものは所詮思うようにはならない、自分と神様だけの関係が大事で安定するのだ、と説教されたり(これはその通りだと思った。ただMさんはカトリックで超家族主義的な韓国人なのに、この考えはずいぶん個人主義的で、どっちかというとプロテスタント的だな、とも思って少し不思議だった。いずれにしろ韓国のキリスト教は韓国の風習との習合がすごくすすんでいる)。まあ私はここは黙ってハイハイ言って聞いていた。宗教の人は仕方ないから。

 ところでMさんは、パク・クネシンパの女帝イモの長女で、バリバリ保守の一族にいながら、今回の大統領選挙でムン・ジェインに投票したのだそうだ。「オンマ(お母さん)とはその話はしないけど」とのことだが、前回の大統領選挙の時も、パク・クネには入れていないそうだ(てことはムン・ジェインに入れたってことだろう)。今回の選挙では、パク・クネの行状があまりにもひどいので、さすがの大邸でも保守の支持率は下がったが、前回の選挙でパク・クネに入れなかったというのは、大邸においては「逆賊」だといえる。何しろ9割以上がパク・クネに投票したという土地柄なのだから。

 Mさんはこんなことも言っていた。「朴正煕は本当に多くの人を殺した。私は朴正煕は殺人者だと思っている」

 大邸でそんなこと言っていいんかいな、と思いつつ、大邸って保守的なんですよね?と聞いてみた。

 「盆地で他の地域と隔絶してるから排他的になる。大邸の人は自分たちは特別だと思っている」

 「それは京都とそっくり。でも京都は古都であることを誇りにしててプライドが高いんですけど、大邸は古都でもないのに」

 「近くに慶州があるから同じ。プライドを持ってる。自分たちは特別と思って特権意識を持っているのは、ここが朴正煕の地盤だから。だから朴正煕の時代にはすごくいい目をみたし、その時に金持ちになった人が大勢いるから。朴クネはその娘だから、大邸では絶対的に支持してる人が多い。うちの親戚もみんなそう」

 大邸の朴クネ絶対支持層がどういう感じなのかは、すでに韓国についてすぐ、イモとYさんの会話を聞いて垣間見てしまった。

 「イモとYさんは朴クネが好きだって言ってましたよ」

 「そう、あの人たちは今回、自由韓国党に入れたから」

 ゲッ、と思った。自由韓国党の大統領候補はホン・ジュンピョという人で、日本の自民党の一番イヤな部分を濃縮したようなタイプだった。あれを支持するのかー、そりゃキツイな。まあでも、朴クネ支持者がこの人に投票するのはごく当然のことではあるのだ。そして大邸市民としてもごく当然な。

 「私はムン・ジェインが好きだけどね。私はムン・ジェインの顔が好きなのよ」とMさん。

 それで思い出したことがある。前回大邸に来た時に教会のミサに行って(つきあいで行かざるを得ない)、その時の神父さんがペ・ヨンジュンに似たイケメンだったのだ。信じがたいが肩近くまであるロン毛でもあった。

 それで、そのあと親戚たちが集まって談笑してる時に、「あの神父さんはハンサムだ、ペ・ヨンジュンに似ている」と言ってみたのだ。神父さんがハンサムだとか言ったら怒られるかな?と思ったけど、親戚たちは「確かにハンサムだ」「ヨン様に似てる」と口々に同意していた(韓国では「ヨンサマ」という言葉は定着している)。

 その時Mさんが、「ヨン様より神父様のほうがハンサムだ」と言ったのだ。「ヨン様より顔つきが繊細だ(英語でmore sensitiveと言っていた)」と。言われてみれば確かにその通りだった。より繊細な感じで、ペ・ヨンジュンよりも美形だといえた。さすが芸術をやってる人のセンスは的確だなあと、しょうむないことではあるが、私は妙に感心したのだった。ペ・ヨンジュンは韓国ではそれほど人気のある俳優ではなかったが、Mさんは「私は好きだ」と言っていた。ペ・ヨンジュンが敬虔なキリスト教信者だからかもしれない。

 ムン・ジェインの顔が好きだというのは冗談ではあるけれど、ある程度本当でもあるんだろうな、芸術家だしな、確かにムン・ジェインはイケメンだしな、なんて思ったりした。

花猫がゆく再訪3・大邸(テグ)というところ「全羅道の人間は汚い」の衝撃

 大邸に到着してすぐ、まずは迎えに来てくれた親戚Yさんの車で女帝イモ邸に挨拶に行った。ここでYさん(イモの姪で70歳くらい)と女帝イモの交わしていた会話がまず、「やはりここは大邸…」と思わざるを得ないものだった。

 ちなみに私、韓国語はある程度勉強してきて一般的な会話はだいたい理解できるんですが、大邸の方言、かなり厳しいです。若い人の話す標準語に近い言葉は、わかりやすく話してくれることもあって概ねわかるけれども、年配者の話す純粋な(?)方言はほんとキツイ。方言って日本でいえば東北弁か九州弁くらいのもんかと思っていたけど、どっちかというとアイヌ語か沖縄語くらいの距離感だった。まあ実際はそこまでじゃないんだろうし、もっと韓国語ができたらそんなに違いを感じないんだろうげど、私レベルの韓国語では相当なハードルだった。でも、東北弁もきっとお年寄りの話す純粋な方言はやっぱりあれくらい難しいのかもしれないけど。

 従って、年配の親戚たちの話す内容もよくはわからない。わからないけど、なんかムン・ジェインがどうたら、不動産の税金が上がるのがどうたら、とか、どうもかなり、悪口?言ってるみたい。それも結構、吐き捨てるような感じて。ムン・ジェインが新大統領になって、今のところ支持率も高く、全国民が喜んでいる中で、いきなりムン・ジェインの悪口かよ(^^;)やはりここは大邸なんだなあ、と。

 ところで、日本で在日であるということは、日本では少数者、マイノリティなわけです。そうすると、選挙権はないものの、立場としては普通、「リベラル」に近い立脚点になります。移民なわけですから。基本的には移民やマイノリティに対して開かれた政策が好ましいと思うのが、私としては自然な感覚です。

 だから、大邸が超保守王国だと知った時には、なんとも言えない不思議な違和感があった。大邸には親の親族がいるけど、その人たちもバリバリの保守なのかなあ?親の家族なのに??もしかして、大邸は保守地域だけど、親の親戚は「そうは言ってもねえ」って感じで中道かもしれない、と思ったりもしていた。バリバリの保守が家族にいるというのが、どうも想像しにくかったからだ。

 ムン・ジェインの悪口言い合ってる?らしいイモとYさんに、聞いてみた。「ムン・ジェイン嫌いなんですか?」

 「嫌いというか、好きじゃない」と吐き捨てるように言うYさん。やっぱ嫌いなんやんかー。

 「じゃあパク・クネが好きなんですか?」

 「そうだ。パク・クネはよくないことをしたのは確かだけど、私は支持している」

 ええーっ。超バリバリの保守の親パク派じゃん!やっぱりなあ。

 親戚たちは、絵に描いたような典型的な大邸市民だった。その他にも、何の話の流れだったか、全羅道の話になったので、おそるおそる、「あの、やっぱ、全羅道の人はあまり良くはないんでしょうか?」と聞いてみたら…。

 「そうだ(きっぱり)。全羅道の人間は性質が違う。根性が悪いし、嘘をつくし、汚い」

 あ、ほんとなの。地域感情ってほんとなの。いわゆる慶尚道全羅道の仲の悪さって、話には聞くけど、実際は「そういうことになってはいるけどねえ」って感じなのかと思ってた。そこまで本当なのねー。

 でもね、慶尚道全羅道の対立って、作られたものだって話もあるよ。歴史的にとか、百済となんたらの昔から、なんて言うのは嘘で、実際は朴正煕の時代に自分に有利にするためにデッチ上げて煽った噂が元だって。

 なんてことは言えるわけもなく。語学力の問題ではなく、キリスト教信者にそれ神ちゃうでと言うみたいなものなので(この例えも親戚の場合、シャレにはならない。皆パリパリのカトリック信者だから。信仰と保守思想はここの場合密接につながっているようで)。

 この人たちは、朴クネ&チェスンシル問題が出て以来、国民の絶大な支持と信頼を集め続けたメディアであるJTBCのニュースは絶対に見ないだろう。自分の見たいものだけを見る。信じたいものだけを信じる。それでうまくいっている。Yさんはお金持ちだし息子は医者。女帝イモは孝行してくれる娘たちに囲まれてお幸せで長生きなのだ。

花猫がゆく再訪2・大邱(テグ)というところ

 この4~5年ほど、近くの韓国語講座に通っていた。先生は皆ネイティブの韓国人なのだけど、中に「この人、本当に性格が悪いな」と思う人が何人かいた。表面的な人当たりはいいのに底意地が悪く、他人が見てないところでは陰険な意地悪をするタイプ。とても嫌な思いをさせられたこともある。約2人。どちらも韓国の大邸出身の女だった。その時はたまたまだと思っていた。韓国人はサッパリした人が多いと思っていたので、こんな陰湿な人もいるんだなと思っただけだった。

 うちの母親の出身も大邸で、今でも親戚は大邸に在住している人が多い。母親は10人きょうだいの8番目で、今も母親のきょうだいで存命なのは韓国では10番目の妹だけ。9番目の妹を含め、多くのきょうだいは早々に亡くなっている。うちの母と10番目は顔も体型もそっくりなので(頭の良し悪しだけは正反対)長生きの体質も似ているのかもしれない。

 韓国では母方のおばは「イモ」と呼ぶのだが、この10番目のイモが、前回の覚え書きでも書いた通り、大変な女帝なのである。前近代の家父長制の女版というのか、絶対君主制というのか、とにかく下の者に有無を言わせず従わせる感じ。前回訪問時には献身的な嫁がいて、全面的にこの女帝な姑の世話をしていた。女帝イモはデーンと座ったままで何もしない。料理も洗濯も掃除も、全くしない。皆、嫁がこまごましく動いて働いている。本当に家父長制のお父さんみたいな姑。ほんとによくできた嫁だなあこんなきつそうな姑に黙って仕えて日々働いて、と思ったことは前回の覚え書きにも書いたけれど、実情はまた違っていた(その話はおいおいまた)。

 以前、韓国のテレビの選挙開票速報を見て目を疑ったことがある。大邸では保守の政党(当時はセヌリ党。日本の自民党みたいなもん)の得票率が98%とかいう見たことないような数字だったからだ。逆に全羅道の方ではリベラル政党が98%くらいだったりで、物凄く両極端。よくいわれる慶尚道全羅道の対立というのはこれほどはっきりしたものなのかーと驚いたものだった。

 前回訪問時は知らなかったのだが、慶尚道の中でも大邸のある慶尚北道はTKといわれる本当に特殊な地域で、朴正煕・朴クネのお膝元であり、保守の牙城、鉄板の地域なのだった。今回、朴クネの弾劾を求めて全韓国の人が「ろうそくデモ」を繰り広げる中、それに対抗する親パク派のデモの人たちの印象がとても悪がった。パク親子の恩恵を受けた高齢世代が中心で、そういう人を集めたのかわからないが、ろうそくデモが平和的なデモだったのに比べて、暴力的な人が多く「こわい」という印象があった。私の中では朴クネを支持する人の印象はよくない。そして朴クネ支持者は圧倒的に大邸周辺の人が多いのだ。というか現在の韓国内で、国賊ともいえる朴クネを支持するのはほぼ大邸周辺の人しかいないだろう。それぐらい、特殊な地域なのだ。

 ところで私が生まれ育ったのは京都だけれども、正直私は京都があまり好きではない。排他的で差別的な人が多いからだ。京都の人は特権意識を持っているようで、同じ日本人の中でもよそ者は差別したりする。もし京都で育ってなかったら、子供の頃の差別やいじめももっとマシだったのではないかと密かに思っている。大阪から移住した人が「京都は仕事がやりにくい。人間関係が難しい。人間がえげつない」と言うのを何人からも聞いたことがある。しかも盆地で夏の蒸し暑さは実に耐え難い。

 大邸の人の特徴としてよく言われるのが、保守的、排他的、特権意識を持っている。そして盆地で夏の暑さがひどく、テグ+アフリカで「デプリカ」と呼ばれている…。まるで京都と一緒じゃない?親の地元もこれなのだから、もう差別的な土地柄に縁があるのは私の宿命なのかもしれない(泣)。

脱北者が「脱大邸(テグ)」するワケは? スパイ呼ばわり、就職難・・・ | DailyNK Japan(デイリーNKジャパン)

韓国南部の大邸(テグ)市。人口250万の韓国第三の大都市だが、保守的でよそ者に対して冷たいことで「定評」がある。その大邱に住む脱北者が最近、「脱大邱」する傾向にあると大邸の地方紙、嶺南日報が伝えた。

昨年12月の時点で大邱市内に住んでいる脱北者は683人で昨年6月の702人に比べると減少している。脱北者が大邸を離れる理由として一番に挙げられるのは就職難だ。

 

しかし、就職難以上に脱北者が大邸を離れる最大の理由として挙げられるのは脱北者に対する大邱市民の「偏見」だ。

大邸在住10年のパク・チンソクさんは「北朝鮮訛りのせいで仲間はずれにされた経験が忘れられない」「脱北者だと言うとあからさまに見下される」などと大邸でのつらい経験を語った。

「『北朝鮮から来たんだからパルゲンイ(アカ)だろ?』と言われたことが心の傷になっている」とスパイ扱いされたことすらあるとパクさんは語った。

ユ・ミニさんは昨年9月、ハナ院(脱北者教育施設)から居住地として大邸が割り当てられた。言われるがままにやってきたものの半年足らずで大邸を去った。

ユさんは「大邸の人はよそ者を中々受け入れてくれない」「訛りで脱北者かどうか確認されるのが大きなストレスだった」と大邸での経験を語った。

 これはひどい。これじゃ日本での在日差別と一緒じゃないか。しかも同じ民族の中でも差別するあたり、京都ともちょっとかぶる。

 しかし語学学校の大邸出身の先生の陰険さも、こういう土地柄なら少し理解できる気がする。それと、これはただの印象論なのだけど、日本在住の若い韓国人には大邸出身の人が妙に多いな、と思ったことがある。もちろん統計的にはわからないけれど。地理的に近いからかな?と思ったりもしたけど、もっと近くて人口も多い釜山の人にはあまり会ったことがない(古くからいる在日には釜山出身はたくさんいる)。

 これは私が勝手に思っているだけで何の根拠もないけれど、実は大邸の人の中にも(特に若い人は)大邸を窮屈に思っている人が結構いるんじゃないんだろうか。おおっぴらには言えないけど、こっそり脱大邸したいと思ってる人が多かったりするのかも。なぜおおっぴらには言えないかというと、あの異常なナショナリズム儒教でがんじがらめなために、自分の住んでる土地、国、家庭に不満を言うことが許されにくい社会だから、かもしれない。特に家庭の中で目上の人に不満を言うのは難しかろうなあ、と強権的な女帝イモを見て思ったのでした。

 あと、現在の韓国ではソウルの大学を出ないと就職が難しいという事情もあるかも。地方の大学出身者は外国に行くなりして別のキャリアを模索する人が多いと聞くので。

 悪くばかり言ってるようなのでいいことも書いておくと、大邸に限ったことではないかもしれないけど、親戚たちに関して言うと、家族親族の結束は物凄く強い。日本では親戚づきあいってもっと淡白なことが多いけど、この人たちは一族がまるで「部族」という感じなのだ。日本でも田舎ではそういう感じなのかもしれないが、いっても大邸は韓国第3の都市で、大都市なのだ(大都市だけど人は田舎のまま、といえばそうかもしれないが)。

 私などから見ると、ちょっと窮屈そうに見えたり、いわゆる「黒い羊」というか、家族の期待にそぐわないタイプだったらしんどそう、とか思う部分もあるけど、あれだけ結束が固かったら何かと心強いだろうとは思う。保守的、排他的であることの一面なのだろうね。